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多焦点眼内レンズの脳の適応について②

こんにちは。
前回は、多焦点眼内レンズを使用して手術を行った場合に稀に起こる「脳の順応」についてご紹介しました。単焦点レンズと違い、多焦点眼内レンズは焦点を複数に合わせるということから構造が複雑になっており、年齢が上がる程、稀に「脳の順応」に時間がかかる方や時間を経過しても順応しない方もいらっしゃるという内容でした。

今回は、白内障手術において連続焦点型多焦点眼内レンズであるテクニスシナジーIOLを挿入し、視力が向上するまでに時間がかかった患者様についてご紹介します。実際の視力も記載させていただきました。基本的には、手術後数週間で視力が向上することがほとんどなため、時間はかかりましたが最終的に視力が向上して安心しております。

 

【症例】 女性・80歳代

かかりつけ医から白内障と診断され、白内障手術をしている眼科クリニックを紹介されました。しかしながら、そちらでは多焦点レンズを取り扱っておらず、多焦点レンズで検討されたかったため当院のホームページをご覧になって、ご来院されました。

 

ーーーー 患者さまのご希望 ----
特に近方を眼鏡なしで見えるようになりたい。

➡術後、裸眼で特に近方が見えるようになりたいとご希望されているため、近方の焦点距離が35cmと最も近い連続焦点型のテクニスシナジーIOLをご提案させていただきました。

 

ーーーー テクニスシナジーIOLの特徴は? ----
近方35cmから中間距離、遠方まで連続してより自然な見え方が可能な眼内レンズです。暗所でも良好なコントラスト感度を保つことが出来ます。
デメリットは、ハロー・グレア・スターバーストなど異常光視症はやや強い傾向があるとされています。夜間の外出の機会が多い方や、夜間に運転を良くする方にはお勧めできません。またコントラスト感度低下も指摘されているため、写真家や色に関わるアーティストの方など微細な違いを気にされる方にもお勧めできません、日常生活では問題ないレベルですので、特に近方を裸眼で見たいという方にはお勧めできる眼内レンズです。

 

 

ーーーー手術についてーーーー

多焦点眼内レンズで、手元を特に裸眼で見えるようにというご本人の希望から、テクニスシナジーIOLでの手術となりました。
しかしテクニスシナジーはグレア・ハローといった異常光視症が強く、80歳代という年齢を考えると脳が順応できず視力が改善しないといった可能性があります。また、その構造の複雑性ゆえ中枢神経である脳の順応が上手くいかず視力が出るまで時間がかかる場合もあります。時間が少しかかっても視力が向上すればよいのですが、6か月たっても視力の改善がなければ単焦点レンズへの入れ替えも考慮しなくてはいけません。手術後の単焦点レンズへの入れ替えについても視野に入れての手術となりました。右眼の白内障手術から行いました。

 

ーーーー 視力の推移 ----

※n.c.  矯正不能で、レンズで矯正してもこれ以上視力が向上しないという意味です。

 

近方の視力からは、プラスの度数の強いレンズを装用しないと0.1以下になるため遠視が強いことになります。

 

 

術後3日目、遠方は少し出ていますが、近方はまだ視力が出ていません。

もしこれが度数がずれて視力が出ない場合には、眼鏡装用で視力がでます。しかし遠方5mの視力が0.6止まりなので、まだ脳が順応していないことがわかります。右眼の経過を待つため、左眼の白内障手術は一旦延期としました。

 

術後2週間、術後3日目より視力が出ず、患者さまも近くはあまり見えないとのことです。

 

術後1か月、遠くは見えるようになりましたが近方はまだ見えないということです。しかし、5mの視力が向上したということは脳の順応が進んできたことになりますので、もう少し待ってみます。

 

術後1.5か月、視力が安定してきました。患者さまも見える実感を感じてこられました。右眼が安定してきたため、左眼の白内障手術を行います。

 

 

 

 

 

 

 

術後2週間、両眼で中間70cmが、0.1(0.5×S+4.00:cyl-1.00Ax73°)

 

 

術後2か月、左眼の近方30cm視力は右眼より視力向上が遅いですが、遠方5mや中間70㎝が向上してきています。

 

術後3か月(右眼からは5か月後)、両眼で近方30cmの視力は0.8(n.c.)となり、患者さまの実感としては、近くも遠くも見えるようになったとのこと。

 

 

左眼は今後も時間とともにもっと視力は向上すると思いますが、視力が出るまでに右眼は2か月、左眼は3か月の順応期間を要しました。視力が向上し、患者様にも喜んでもらえて本当に良かったです。

 


医療の進歩とともに、眼内レンズも5焦点以上更に多くの種類が出てくるように思います。
出来るだけ元々の人間の眼に備わっている水晶体の役割に近く作られてはいますが、やはり元々備わっているもの(水晶体)と、人口(眼内レンズ)とでは脳の反応が違っており、中には順応するという期間が必要になる場合もあるのだと思います。

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