白内障は放置すると
どうなる?
白内障を放置しておくと、進行の速さにもよりますが最終的には失明に至ります。
しかしながら医療が進歩している日本では、白内障単独で失明する確率は3%程度となっています。また、放置しておくことによって、白内障が進行し失明リスクのある緑内障(特に急性緑内障発作)を引き起こす可能性があります。緑内障は日本人が失明する最大の原因となっており、白内障単独での失明率よりも高いものになります。
白内障は、その種類や患者さまの年齢などによっても、治療方法は変わっていきます。
すでに生活に支障が出ている場合は、生活の質を安定させるために手術をお勧めします。しかし自覚症状に乏しく高齢になって白内障にと診断された場合には、他の病気などがある場合に白内障手術が出来ないこともあります。また逆に、どの年代でも手術を受けることで視力を回復することが出来るといえます。
自覚症状がない場合や生活に支障がない場合には、点眼薬により進行を遅らせるという治療もあります。
以前より見えにくい、かすんで見えるなどの自覚症状がある場合は、そのまま放置せずに眼科を受診することをお勧めします。
白内障の失明率
白内障は高齢者の方であれば、ほとんどの方が発症すると言われている疾患です。日本では白内障で失明することは非常に珍しいですが、世界では最大の失明原因(1位:白内障51%・2位:緑内障8%・3位:加齢黄斑変性5%(2010年WHO報告))となっております。
日本と世界でなぜ違いがあるのでしょうか。
まず、世界の失明者数の90%が発展途上国に存在しており、先進国と比べて医療や経済の発展が遅れている発展途上国では、医療アクセスが整っておらず、なかなか白内障の治療を受けられない、手術が必要になっても対応してもらえる病院が少ないというのが現状です。
また、白内障を治療せずにいると失明に至るまで症状が悪化するだけでなく、合併症の発症リスクも上昇します。
このような理由から日本とは異なり、世界では最大の失明原因が白内障となっています。
日本の白内障における
失明率
世界的に見ると白内障は失明を起こす最大の原因ですが、日本で失明に至る確率は約3%程度ととても低いです。
加齢が原因で生じる白内障は、日本でも60代以上の方は、約70~80%が発症し、80代以上の方になるとほとんどの方が発症すると言われています。
医療が進歩している日本では、白内障治療のために手術を受けることが可能です。
白内障は、白く濁った水晶体を粉砕して吸引し、代わりに眼内レンズを挿入する手術です。根本的な治療ができるため、日本では白内障が原因による失明率は、世界に比べて低くなっています。
白内障で失明したら
回復するのか
WHOが提示する失明の定義では「良い方の目の矯正視力が0.05未満」とされています。
白内障になると、視力低下やものの見えにくさ、見え方の違和感などの症状があらわれます。白内障単独で失明に至るのは、水晶体の濁りがかなり進行したときです。簡易的な自覚症状としては、近くも遠くも見えにくい(見えない)、非常にまぶしい、片目で見たときに常に二重に見えるなどが挙げられます。
しかし、白内障によって失明した場合でも、手術をして白く濁った水晶体を取り除き、眼内レンズを挿入することで視力を回復することができます。
一方で、以下の場合で失明に至った場合には、視力の回復は難しくなります。
- 全身状態が良くなく、白内障手術ができない場合。
寝たきりの状態の方や強い認知症の方は手術ができない場合があります。 - 白内障の症状が強く、他の眼疾患の症状に気付かず発見が遅れ、白内障が治っても他の疾患が原因で視力が回復されない場合。
- 合併症により、急性緑内障を発症し失明してしまった場合。
白内障により水晶体の硬化と肥厚が進み、隅角(房水の排水口)が塞がれることで急性緑内障を合併することがあります。急性緑内障が原因で失明してしまった場合に、視神経が圧迫されてダメージを受ける為、視力の回復が難しくなります。
そのため、すでに自覚症状がある場合は、早期に眼科に相談することをおすすめします。白内障と診断された場合は、すぐに手術の必要がなくても、定期的に検査・診察を受けて自身の目の状態を理解しておくことが大切です。
白内障を放置すべきでない理由
日本のような先進国では白内障で失明することは稀ですが、見えるからといって放置しておかず定期的に目の状態を理解しとくようにしましょう。
白内障は手術を受けないと根本的に完治することがない病気です。自覚症状が無い場合や生活に支障がない場合には、点眼薬にて進行を遅らすことができます。しかし日常生活に支障をきたす場合には、手術を検討することが望ましいです。手術を受けることで、クリアな視界を長く維持することにもつながるため、適切な時期に手術を行うことをお勧めいたします。
以下に、手術を受けないで放置しておいた場合のデメリットをご紹介します。
① 放置すると失明のリスクがある
白内障は、点眼治療をせずに進行したまま放置すると失明のリスクが高まります。
水晶体が真っ白に白濁するほど放置してしまうと、水晶体が液状化して炎症を起こす水晶体融解性ぶどう膜炎などを引き起こすリスクもあります。水晶体融解性ぶどう膜炎によって、充血や強い痛みの症状が生じ、緊急手術が必要となります。このような場合には手術をしても後遺症のリスクは存在します。
また、白内障を放置することで急性緑内障発作のリスクも上昇します。
白内障は放置すると水晶体が膨隆し、眼球の中の水分を外に出す隅角が閉塞します。すると眼圧が上昇した状態が慢性化し、急性緑内障発作の発症リスクが高まります。
図 急性緑内障発作
「Copyright: Santen Pharmaceutical Co., Ltd.」
日本では緑内障が失明の最大の原因であり、急性緑内障発作によって欠けてしまった視野を戻すことは不可能です。
こうした合併症により失明のリスクが上昇するため、白内障を治療せず放っておくことは避け、必ず眼科にて治療をおこなうことをお勧めします。
➁ 深刻な病気に気付きにくくなる
白内障を治療せず放置すると、水晶体の濁りにより検査をしても網膜の状態がしっかり見えず、加齢性黄斑変性や網膜前膜などの網膜の病気に気付きにくくなります。その他の目の病気を早期に発見するためにも、白内障は放置せず治療することが大切です。
➂ 見えにくいことで心身に害を及ぼす
白内障の症状が日常生活に影響することで、心身にも大きな負担がかかります。
「見えにくい」などの白内障の症状は、転倒による骨折や認知症、生活習慣病、睡眠障害などの発症リスクも上昇します。
特に視力と脳は綿密に繋がっているため、見えにくい状態を続けていると脳に大部分の情報が届けられないことになります。そのため意欲の低下や、思考能力の低下に繋がり、認知症リスクが上がってしまいます。
見えにくさにより心身にストレスが溜まり、健康指標が低下し、寿命の短縮を招く原因にも繋がります。白内障手術は、「日常生活に支障が出てきた」タイミングで手術を受けることをお勧めいたします。しかし、自覚症状がなく進行しているケースもあるため注意が必要です。
定期的な検査・診察を行い、主治医と相談の上、点眼治療や手術を受けるタイミングを検討していくことが重要です。
⑤ 自覚症状を感じない白内障に注意
基本的には「生活に支障がでてきた」タイミングで手術を検討することをお勧めしておりますが、中には、進行していても自覚症状が乏しい白内障や生活習慣によって自覚症状を感じにくい場合があります。
進行しても自覚症状が
乏しい白内障
白内障の中でも「核白内障」は、水晶体の内容物が硬く膨隆します。
核白内障は、「老眼のはずが最近は老眼鏡をつけなくても手元が見えるようになり、代わりに遠くが見えにくくなった」といった症状があらわれます。
以前までの老眼の症状が改善されたように感じ、新しい眼鏡をかけることで生活に支障がなくなるため、自覚症状が乏しくなり気づきにくくなります。
また、核白内障が大きく進行した状態では、手術の際に硬く膨張した水晶体の吸引に時間がかかるため手術をする際の目への負担が大きくなります。
眼科医に相談した際に、「水晶体の内容物が硬化している」と言われたり、「核白内障」と診断された場合には、生活に支障がない場合でも手術を検討することが望ましいでしょう。
生活習慣によって自覚症状を感じにくい場合
生活習慣によって自覚症状を察知しづらくなる場合があります。
例えとして、同じくらい白内障が進行している2名の患者さまを例にします。
お一人は旅行が趣味で、頻繁に自動車を運転するなどし、自宅にいることが少ないアクティブな方です。
もう一人は外出することが少ない方で、自宅で1〜2メートル先のテレビを見て過ごすことが多い方です。
前者は、さまざまな距離のものを、さまざまな環境変化の状況下で見る機会が多いため、自覚症状を早期に察知しやすいです。
後者は、基本的に同じ状況で、同じものを見ることが多いため、症状を自覚することが難しくなります。
同じくらいの白内障の進行度合いであっても、白内障を自覚するタイミングはそれぞれ異なり、自覚症状がないまま他の疾患で眼科にかかり、白内障の診断を受ける方もいらっしゃいます。
白内障は、手術をすれば視力を回復することができる病気です。早期発見することで早期治療につながり、生活の質を向上することが期待できます。気になる症状がある場合には眼科を受診することが大切です。